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黒島伝治著『武装せる市街』(改訂版)
『Busouseru Shigai (Armed City)』Written by Kuroshima Denji(Revised edition)
188×127×180㎜ / Ink,paper / silk-screen printing /
2023

…×××××が壁に突きささった。…

黒島伝治(1898-1943)の著書『武装せる市街』は昭和三年に起こった済南事件に取材した長編小説。農民や下級労働者、兵士らが虐げられる様子を描くと同時に、将校や経営者等の横暴さと残忍な行為を暴き、帝国主義、資本主義、戦争と暴力を批判する。

昭和五年十一月十五日に出版された初版は、内務省から発行即日販売頒布禁止処分を受ける(「禁止本」)。その後、改訂・校正された改訂版『武装せる市街』の再出版が同年十二月に試みられるが、またしても出版禁止となる。本作品はこの「改訂版」をモチーフにしている。

「禁止版」「改訂版」は共に検閲に備え、伏せ字が施されている。「改訂版」の伏せ字は37ページにおよぶ。「△」「□」「○」「×」「  、  。(伏せ字を空欄にして句読点のみを打つ)」など多様である。また数ページに渡って「×××」で覆われている。

​ これらの記号は抑圧された言葉に代わって抗うように強い存在感を示し、時代の不条理さをより一層際立たせる。伏字のページを何百層のインクで摺り重ねることでそこに隠された言葉の気配と重み、当時を生きた人々の葛藤と抵抗の痕跡を表そうとした。

 青木文庫版(1953年刊)によって伏せ字部分を照らし合わせると、暴力や強姦等の残忍な場面、日本の地名や「日本人」「ブルジョアジー」「革命的連帯」「田中義一」といった語が隠されていた。しかし、何故伏せ字としたのか分からない箇所もある。

戦後、伏せ字を補った『武装せる市街』の刊行が試みられるが、GHQの検閲により不許可となる。反帝国主義・反植民地主義と共産主義思想を備えた本書は米国には不都合であったのか。戦前~戦後に渡って出版禁止となった『武装せる市街』は、昭和二十八年に青木文庫から出版を待たねばならなかった。

参考
牧義之著『伏字の文化史―検閲・文学・出版』森話社,2014
黒島伝治『武装せる市街』青木文庫,1953
黒島伝治『武装せる市街』日本評論社、昭和五年十二月七日刊 「特501-504」国会図書館デジタル

※本作品には現在では不適切に捉えられる言葉が含まれるが、原文に従ってそのまま発表する。

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