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HIDAKA IKU

日高 衣紅

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 昔、骨董品店で働いていたことがある。寺社で頒布された御札、古書店で手にした版本や古新聞のインクのかすれやにじみを見るのが好きだった。人の手によって摺られた痕跡、あるいは機械のエラーによって生じるフラットでない紙の上の様相に、印刷に携わった人の存在やその場所の歴史を感じ取ることができるからだ。

 今でも骨董市や古書店に行き古い版本や印刷物を収集している。ときに好奇心に駆られてそれらが印刷された場所に赴き、その印刷物にどのような人が関わり、どのような歴史があったのかを調べたりする。このようなフィールドワークが今の私の制作に繋がっている。

 収集あるいはリサーチした印刷物をモチーフに、シルクスクリーンでインクを摺り重ねていくのが私の作品の制作手法である。印刷物が辿った運命を追体験するように数百層のインクを手で摺り重ねていく。インクの重なりと次第に崩れていく造形によって、その印刷物と共にあった人や場所の記憶を表そうとしている。

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